建設業における「一人親方問題」と法務対応 - 国交省ガイドラインの遵守と脱・偽装請負 -
文責:弁護士 古山 雅則
本記事で書かれている内容
その一人親方は本当に「個人事業主」といえるか?
「一人親方」とは、一般に従業員を雇っていない個人事業主の技能者・職人のことを指します。
国土交通省は、「社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン」により、
- 実態が雇用労働者である一人親方の排除
- 法定福利費の適正確保
- 元請による実態確認の徹底
を強く求めています。
事業主が労務関係諸経費の削減等を意図して、従業員であった者などの個人と個人事業主として請負契約を結ぶことは、たとえ請負契約の形式であっても、当該個人事業主が実態に照らして労働者に該当する場合、偽装請負として職業安定法等の労働関係法令に抵触するおそれがあります。
建設業における「一人親方問題」(偽装請負問題)は単なる労務問題にとどまらず、
経営・コンプライアンスの問題といえます。
なぜ一人親方化が進むのか
― 法定福利費負担の問題 ―
建設業においては、社会保険(健康保険、厚生年金保険及び雇用保険)への加入不備が若年者の入職敬遠の大きな要因になっているなどの問題意識から、国土交通省の主導により適正な社会保険への加入対策が進められてきました。
その結果、社会保険加入率はほぼ100%となるなどその成果を上げたところですが、この社会保険加入対策や労働関係法令規制の強化に伴い、法定福利費等の労働関係諸経費の削減を意図し、技能者の個人事業主化(規制逃れを目的とした一人親方化)が進みました。
会社負担の法定福利費(概算)
- 健康保険
- 厚生年金
- 雇用保険
- 労災保険
これらは、おおまかに計算すると、賃金の約15%前後を会社が負担することになります。
一人親方化すると、
- 会社負担ゼロ
- 労務管理義務も回避
- 残業規制の影響も回避
という「コスト削減効果」が生じます。
厳しい経営環境にある中小建設業にあっては、これらのコスト削減効果は部分的・短期的にみれば魅力的に映ります。
しかしこれは、
- 偽装請負
- 社会保険法違反
- 労基法違反
- 建設業法違反
につながる重大な法令違反リスクがあり、全体的・長期的にみれば、担い手となる人材の確保・育成への支障をもたらすなど建設産業にとってマイナス影響が大きく、各建設企業において法令への抵触可能性があれば是非とも改善すべき経営課題といえます。
一人親方チェックリスト(労働者性診断)
一人親方の基本的な姿とは、請け負った工事に対し自らの技能と責任で完成させることができる現場作業に従事する個人事業主です。この一人親方は、一定時間の労務の提供をすれば賃金を受け取ることのできる労働者(雇用契約)とは区別され、仕事を完成することで報酬請求権が発生する請負契約に基づき労務を供給する請負人となります。
請負か雇用かの判断基準は次のとおりです。
- 指揮命令関係の有無
- 報酬の性質(出来高か固定か)
- 代替性(他人を使えるか)
- 専属性
- 機材・資材負担
以下でチェックリストの形で整理していますので、気になる企業は一度確認してみてください。一人親方側で見た場合に、 Bが多い場合は労働者性が強い と考えられます。
① 依頼に対する諾否
□ A:仕事を断る自由がある
□ B:実質的に断れない
② 指揮監督
□ A:仕事の進め方を自分で決める
□ B:元請会社から具体的な指示を受けている
③ 拘束性
□ A:働く日・時間は自分で決められる
□ B:元請会社が決めている
④ 代替性
□ A:代役を立てられる
□ B:本人しか作業できない
⑤ 報酬の性質
□ A:工事完成に対する請負報酬
□ B:日当・時間給に近い
⑥ 機材負担
□ A:道具・機材は自分で用意
□ B:元請会社が支給
⑦ 報酬水準
□ A:元請会社の正社員より高額(経費込み)
□ B:正社員並みかそれ以下
⑧ 専属性
□ A:他社の仕事も自由に受けられる
□ B:実質的に専属
【事業主としての技能と責任能力があるか】
上述したとおり、一人親方とは、請け負った工事に対し自らの技能と責任で完成させることができる者があるべき姿とされています。このため、「社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン」では、望ましい一人親方の在り方を次のとおり示しています。このとおりの一人親方ばかりを確保することは難しいかもしれませんが、目指すべき方向性としては参考にすることができます。
- 技能
相当程度の年数を上回る実務経験を有し、多種の立場を経験していることや、専門工事の技術のほか安全衛生等の様々な知識を習得し、職長クラス(建設キャリアアップシステムレベル3相当)の能力があること等
- 責任
建設業法や社会保険関係法令、事業所得の納税等の各種法令を遵守すること、適正な工期及び請負金額での契約を締結していることや、請け負った工事の完遂がされること、他社からの信頼や経営力があること等
元請企業の役割と責任
「社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン」において、元請企業は、請け負った建設工事におけるすべての下請企業に対して、適正な契約の締結、適正な施工体制の確立、雇用・労働条件の改善、福祉の充実等について指導・助言その他の援助を行うことが求められています。
具体的には、作業員名簿等を確認すること等を通じて、建設工事の施工現場で就労する建設労働者について保険加入状況を把握するなど、次の役割と責任を果たすことが必要とされています。
- 実態確認義務
- 不適正な一人親方の是正指導
- 改善がなければ現場入場を認めない取扱い
特に一人親方に関しては、
- 年齢が10代の技能者で一人親方として扱われているもの
- 経験年数が3年未満の技能者で一人親方として扱われているもの
については、実態が雇用労働者であるにもかかわらず、一人親方として仕事をさせていることが疑われる例として挙げられており、一次下請企業としては、これらの実態調査と指導がなされ得るため、注意が必要です。
下請企業の役割と責任
「社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン」において、下請企業は、次の役割と責任を果たすことを求められています。
- 雇用する労働者の適切な社会保険への加入と一人親方への対応
- 元請企業が行う指導等への協力
- 雇用する労働者に係る法定福利費の適正な確保
- 再下請負に係る適正な法定福利費の確保
労働者である社員と請負関係にある一人親方の二者を明確に区別した上で、労働者である社員については 社会保険加入手続を適切に行うことが必要です。
上記の一人親方チェックリストなどを参考にして、仮に一人親方として扱うことが不適当であれば、雇用契約を締結の上、社会保険への加入手続きを行う必要があります。
偽装請負と認定された場合のリスク
① 未払残業代請求
② 労災問題
③ 社会保険遡及加入
④ 偽装請負による行政指導
⑤ 建設業の許可・更新への影響
⑥ 公共工事の競争入札への影響
⑦ 経営事項審査への影響
⑧ 下請選定への影響
とくに公共工事受注企業にとって影響は重大です。
一人親方問題は「経営戦略」の問題
短期的にはコスト削減でも、
- 遡及保険料
- 未払残業代
- 行政処分
- 企業イメージ低下
が生じた場合、経営インパクトは極めて大きいものになります。
中小建設企業が今すべきこと
① 現状診断
- 一人親方の技能、経歴、人数の把握
- 働き方の実態調査
- 契約内容の確認
② 契約書の整備
- 請負内容の明確化
- 責任範囲の明確化
③ 法定福利費の見積反映
社会保険の加入に関する下請指導ガイドラインは、法定福利費を
「適正施工確保のため不可欠な経費」と明示しています
見積段階からの適正反映が必須です。
虎ノ門法律経済事務所名古屋支店による法務支援
- 労働者性リスクの法的評価
- 契約内容の再設計
- 元請との対応方針の策定
- 行政との対応方針策定
- 未払残業代予防
- 労災予防及び対応
- 各種リスク遮断
建設業経営者の皆様へ
一人親方問題は、「慣行の問題」ではなく「コンプライアンスと経営の問題」です。
ある日突然、訴訟や行政対応に発展する可能性がある重要課題であり、放置は許されません。
一人親方問題(偽装請負問題)に関する対応整備などの労務・法務管理については、建設業における労働問題に強い弁護士などの労務の専門家の支援を受けながら、対応をされることを強くお勧めいたします。
真面目に経営をされている経営者の皆様が、法を「知らなかった」、あるいは「軽んじていた」がために、苦しい思いをされることが少しでもなくなるようにと願っています。
お気軽にご相談ください。

岐阜県出身。中央大学法科大学院卒業。経営者側に立った経営労務に特化し、現在扱う業務のほとんどが労働法分野を中心とした企業に対する法律顧問業務で占められている。分野を経営労務と中小企業法務に絞り、業務を集中特化することで培われたノウハウ・経験知に基づく法務の力で多くの企業の皆様の成長・発展に寄与する。
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