建設業の「労働条件通知書・雇用契約書」作成の実務 -現場・職人・多様な働き方に対応する契約設計-

文責:弁護士 古山 雅則

本記事で書かれている内容

建設業でも「労働条件通知書または雇用契約書」が必要です

使用者は、従業員を雇入れるにあたり、労働者に対して賃金、労働時間その他の一定の労働条件を明示しなければなりません。労働条件のうち、賃金や労働時間などの重要事項については、「書面」をもって明示することが必要です(労基法15条1項)。このことは、建設業の使用者であっても同様です。

むしろ、労働条件が不明確となりがちな建設業においては、「建設労働者の雇用の改善等に関する法律」が、「事業主は、建設労働者を雇い入れたときは、速やかに、当該建設労働者に対して、当該事業主の氏名又は名称、その雇入れに係る事業所の名称及び所在地、雇用期間並びに従事すべき業務の内容を明らかにした文書を交付しなければならない。」(同7条)と規定し、建設事業者に対し建設労働者を雇用する場合に書面交付をすべきことを促してきました。

ところが、建設業では、

  • 職人の採用・離職が多い
  • 現場ごとに働き方が異なる
  • 臨時社員が多い
  • 日給・月給・出来高など賃金体系が多様
  • 一人親方との境界が曖昧

といった特徴があることもあり、募集にあたって労働条件は示すものの、雇入れ時に労働条件の明示を書面で行わず、習慣的に口頭によって契約をすることが実態として少なくないまま今日に至っていることが窺われます。昔ながらの職人気質の経営者の方には、「職人にも契約書がいるなんて知らなかった」と本当に悪気なく、契約書を作成されてこなかった方もいらっしゃいます。

もっとも、労働条件を書面で明示しないことは労働基準法違反であり、労働基準監督署による是正勧告の対象となります。

また、労働条件通知書・雇用契約書の不備は労務トラブルにつながり、あるいは労務トラブル発生時に企業側に想定外の大きな不利益をもたらしかねません。

実際に、

  • 未払残業代請求
  • 労働時間争い
  • 解雇紛争
  • 問題社員対応
  • 雇用と請負を巡る争い

の多くは、「最初の契約が曖昧」であることが原因となって生じ、あるいは紛争発生時に企業側に不利な結果をもたらすことが多く起きていますので、中小建設企業においても労働条件の通知又は雇用契約は「書面」をもって行うことが大切となります。

1.労働条件通知書または雇用契約書の作成・交付

1)労働条件の明示

労働契約の締結(労働者の採用)に際して、使用者が明示すべき労働条件は次のとおりです(労基法15条1項、労基則5条1項及び3項))。

≪書面の交付による明示事項≫
  • 労働契約の期間に関する事項
  • 有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項(通算契約期間、更新回数の上限、5年超の場合の無期転換申込権と無期転換後の労働条件を含む。)
  • 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項(就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲を含む。)
  • 労働時間に関する事項(始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに交替制勤務の場合における就業時転換に関する事項)
  • 賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金を除く。)の決定、計算及び支払方法並びに賃金の締切り及び支払の時期に関する事項
  • 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
≪口頭の明示でもよい事項≫
  • 昇給に関する事項
  • 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
  • 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及び賞与に準ずる賃金に関する事項
  • 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
  • 安全及び衛生に関する事項
  • 職業訓練に関する事項
  • 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
  • 表彰及び制裁に関する事項
  • 休職に関する事項

建設業の場合、法律上は書面化まで求められていない事項であっても、上記④⑤⑦は特に重要性が高いため、書面による条件明示が望ましいといえます。

なお、書面の交付が求められている事項については、書面の交付に替えて電子メール等の方法(当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限られます。)による明示でも可能となっています(労基則5条4項)。

2)建設業労働者向けモデル様式

交付が求められる書面の形式に決まったものはありませんので、自由な書式で作成することができます。

厚生労働省では、そのホームページ上で建設労働者用の労働条件通知書のモデル様式を公開しています。同様式を使うことで法定明示事項を満たすことができますので、こちらをそのまま使うか、これをベースとして自社に合わせて改良して使うことが良いでしょう。【厚生労働省作成:モデル労働条件通知書(建設労働者用)

3)労働条件通知書または雇用契約書の交付

労働基準法が使用者に義務付けていることは、書面の交付による労働条件の明示です。また、労働契約の基本的ルールを定める労働契約法上も、「労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとする。」(労契法4条2項)とだけ規定し、「契約書の作成」まで求めているものではありません。

したがって、労働条件の明示は、「雇用契約書」という体裁のものを作成・交付することによってなされる必要は必ずしもありません。実際、労働条件を通知する「労働条件通知書」をもって労働基準法が要請する条件明示を行うことは実務上多く行われています。

もっとも、こうした労働条件通知書は、通常、所定の募集要項の提示及び採用選考プロセスを経て使用者・労働者の双方が合意した労働条件が反映されているはずです。従業員への交付用原本に加えて写しなどを用意し、副本に「本通知書記載事項につき説明を受け、内容を確認しました。」などの記載を加え、従業員本人から署名・押印を取得することが望ましいといえます。こうした正・副の労働条件通知書をもって、使用者・労働者の意思の合致が確認され、この労働条件通知書が合意書面として契約書と同等の意味を持つことになります。

2.建設業で特に注意すべき記載項目

建設業で特にトラブルとなりやすい項目は次のものです。
自社の実情に合わせて実態にあった記載をすることはもちろんですが、労働者の採用にあたり、「使用者は、労働者に提示する労働条件及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにする」(労契法4条1項)ことが大切です。

就業場所・業務内容

建設業では

  • 現場が日々変わる
  • 出張・遠方現場がある

ため、

  • 「就業の場所:本社」あるいは「就業の場所:名古屋市内の現場作業所」
  • 「従事すべき業務の内容:塗装工事」

といった採用時点で予定している場所や業務内容の記載だけでは不十分なことが多いです。

≪望ましい例≫
  • 「就業の場所:(雇入れ直後)○○営業所 (変更の範囲)会社が指定する場所。ただし、本社及び東海3県の営業所に限る。」
  • 「従事すべき業務の内容: (雇入れ直後)塗装工事業務 (変更の範囲)会社内の指定するすべての業務」

など、将来の配置転換等に備えた記載にします。採用時点でその予定がなくとも、当該現場だけの臨時社員として雇用するものでない限りは、長期的な観点で労働条件を考えておくことが望ましいといえます。

労働時間・始業終業

建設業では

  • 現場ごとに始業時間が異なる
  • 天候による変動がある

ため、基本的な始業・終業・休憩時間を定めたうえで、柔軟な対応ができるように次のような記載を設けることが不可欠です。

  • 「ただし、各現場の都合により、または作業工程の変更、天候急変等やむを得ない事情により、これら(始業・終業・休憩時間)を繰り上げ、または繰り下げることがある。」
休日・休日の振替
  • 日曜固定
  • 土曜は現場による

など曖昧なままだとトラブルになります。

休日がどのように定められているかは給料と並んで労働者の最大の関心事です。これがあやふやなままだと入職後にトラブルとなりやすく、せっかく採用した人材もすぐに退職してしまうことにもなりかねません。

週休2日制(4週8休)を導入している場合は、建設企業においてはアドバンテージにもなりますので、積極的に記載すべきです。

また、屋外作業が中心の場合は、雨天や降雪時など天候によって作業ができない日が生じ得ます。こうした場合に備え、予定していた労働日を休みに、予定していた休日を労働日とできるよう、休日の振替に関する規定を設けておくべきといえます。

賃金体系

給料・賃金は建設業に限らず働く従業員にとってもっとも大切な労働条件です。

建設業では特に、

  • 日給制
  • 月給制
  • 日給月給制
  • 出来高

といった賃金制度が混在しやすく、労働条件が不明確となりがちですので注意が必要です。

建設業の技能者は今も日給制が多いように見受けられますが、その日給が「何時間の労働時間分として支払うのか」が不明確だとこれがトラブルのもととなり得ます。

≪注意点≫

✔ 日給または月給に残業代を含めていないか
✔ 固定残業代の明示
✔ 各手当を定める場合はその性質(残業代見合いか否か、支給条件等)

固定残業代(ある場合)

必ず

  • 時間外労働何時間分か
  • 定額とする金額
  • 超過分は別途支給

を明記する必要があります。

ここが曖昧だと、残業代として支給する定額分が残業代の支払いとして有効と認められず、全額未払扱いになる可能性が高いといえます。

非常に多いケースで、「残業代は定額で払っています」と経営者の方から説明を受けつつも、労働条件通知書ないし雇用契約書を見るとその定額残業代の記載がないというものです。そこには「現場手当」「職長手当」など、残業代見合いの趣旨を必ずしも読み取ることが難しい手当のみが記載されていることが多く、こうした場合は残業代(時間外割増賃金)の支払としては認められない可能性が高いため、早急に対応が必要です。

求人票記載の募集条件との相違は許されるか?

労働者を募集するときには、求人広告や求人票に賃金見込額や所定労働時間等の労働条件を記載します。そこで示すものは、形としてはあくまで募集時における見込みの条件であり、予定です。このため、実際の採用にあたっては、労働条件が募集条件と異なるということが起こり得ますし、それが直ちに法的に問題というものではありません。

もっとも、例えば賃金についていえば、賃金は求職者にとって最も重要な労働条件の一つであり、誇大な表現や誤認を生じさせるような金額を記載することは避けなければなりません。求人票等の募集条件と採用後の労働条件が異なる場合には、面接段階等応募者が入社の諾否を決定する前にその理由を含めて変更内容を明示することが使用者に義務付けられています(職業安定法5条の3)。悪質なケースで、採用過程の中で実際の給与規定の運用と異なる説明をし、入社後に説明していた内容よりも低い給与で処遇したような場合には、不法行為責任を問われる可能性もあります。

3.建設業特有の重要論点

「雇用」か「一人親方」か

建設業では

  • 実態は雇用なのに請負
  • 逆に請負なのに雇用扱い

といった問題が頻繁に発生しています。

実態が雇用契約である場合、そのことを明確にするためにも雇用契約書は不可欠です。

現場監督の扱い

現場監督について

  • 管理職扱い
  • 残業代なし

としているケースがありますが、適切な契約設計がないと未払残業代問題に直結します。労働基準法が規定する労働時間・休憩・休日の規制が適用されない管理監督者(労基法41条2号)は、職務内容、責任と権限、勤務態様等からその該当性が判断されます。役職だけで管理監督者に当たるということはなく、その範囲は狭く限定的に解されますので、職制上の役付者への労働条件の設定は慎重に行う必要があります。

移動時間・待機時間
  • 朝集合→現場
  • 資材待ち
  • 指示待ち

などの時間は、建設業では労働時間該当性が争われやすい領域です。

契約で整理しておくことが望ましいといえます。

安全配慮義務

建設業では

  • 高所作業
  • 重機作業

など危険が伴います。

そのため、安全管理体制や指示系統の明確化も重要です。

4.よくあるトラブル例

実務上よくあるケースとしては、例えば次のようなものがあります。

ケース①

「日給に残業代込み」「月給に残業代込み」としていたが無効

→ 時間外割増賃金請求

ケース②

現場監督を管理職扱い

→ 管理監督者否定 → 未払賃金請求

ケース③

移動時間をカウントしていない

→ 労働時間認定 → 未払残業代請求

ケース④

雇用か請負か不明確

→ 労災・社会保険問題

5.企業が取るべき実務対応

労働条件通知書または雇用契約書の見直し
  • 実態を正しく反映
  • 建設業特有論点へのケア
就業規則の作成

労働条件通知書ないし雇用契約書は、法定された書面交付による明示事項のみを端的に記載することが通例です。このため、口頭明示で足りる事項を含めた詳細な労働条件は、就業規則で定めることが望ましいといえます。
就業規則は、労働者が就業において遵守すべき規律を統一的に定めてすべての労働者に適用することができ、そこで規定した労働条件や就業上の規律は個別の雇用契約の内容に取り込まれます。労働基準法上は、常時10人以上の労働者を使用する使用者に就業規則の作成義務が課せられていますが(労基法89条)、そうでなくとも、就業規則を作成しておくことは使用者にとって有益といえます。

労働条件・働き方の見直し
  • 36協定
  • 勤怠管理

と整合性を取りつつ、生産性を高め、時間外労働を減らし、あるいはより魅力的な労働条件となるよう働き方の見直しを検討します。

一般に、建設業界では4週4休以下など休日数が少なく労働条件が厳しいと言われていますが、こうした環境が敬遠され若年入職者が少ないことがかねてより問題視されてきました。国土交通省は建設業の働き方改革を一段と強化していくことを宣言していますが、業界団体においても「4週8閉所の実現」や「4週8休の確実な取得に向けた取組みの推進」「女性入職促進、就労継続」などの取り組みを進めており、これらの官民一体となった建設業の担い手確保のための施策を積極的に取り入れていくことが求められています。

採用時の説明の正確性

募集時においては、本来は固定残業代が含まれているにもかかわらず、これを明示せずに月給額または日給額を示すなど、賃金の内容を正確に説明していない企業がなかには散見されています。所定労働時間、休日数なども含め、予定している労働条件は正しく説明しておくことがミスマッチを防ぎます。

入社後に活躍してもらうためには、企業側にも採用時の誠実性が求められます。

6.労働条件通知書は「防御のための書面」

労働条件通知書・雇用契約書は、単なる形式的な書類ではありません。

  • 未払残業代防止
  • 労基署対応
  • 紛争予防

のための最重要の防御ツールであり、従業員に活躍してもらうための従業員への安心の提供でもあります。

7.虎ノ門法律経済事務所名古屋支店の法務支援

虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、

名古屋・愛知を中心に中小建設企業様の労務問題を多数支援しています。

主な支援内容
  • 雇用契約書作成支援
  • 労働条件通知書作成支援
  • 36協定作成・見直し支援
  • 特別条項設計
  • 労働時間管理体制整備
  • 固定残業代制度の設計、運用支援
  • 変形労働時間制の導入、運用支援
  • 未払残業代リスク診断
  • 労基署対応
  • 就業規則整備
  • 働き方改革コンサルティング
  • 経営参謀
建設業の労務管理は「入口」で決まる

労務トラブルの多くは、採用時の設計ミスから始まります。

  • 契約が曖昧
  • 説明不足
  • 実態とズレ

これが後に大きな紛争になりかねません。

建設業の労務問題でお困りの方へ
  • 雇用契約書を作成したことがない
  • ずっと昔に作った雇用契約書を変わらず使っている
  • 労働条件通知書の内容を理解していない
  • 労働条件が建設業に合っているか分からない
  • 未払残業代が不安
  • 労基署対応が心配

そのような場合はお気軽にご相談ください。

建設業の労務管理は、業界特有の実務を踏まえた対応が不可欠です。労働条件の設計や法定書類の作成、働き方改革などは、建設業における労働問題に強い弁護士などの専門家の支援を受けながら対応をされることをお勧めいたします。

真面目に経営をされている建設業の経営者の皆様が、労務管理の問題で苦しい思いをされないよう、少しでもお力になれればと願っています。

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