リベンジ退職を許さない~企業が知っておくべき法的リスクと実務対応~

文責:弁護士 古山 雅則

本記事で書かれている内容

それは「平穏な退職」ではありません

突然の退職。
引き継ぎも拒否。
社内外への批判投稿。
顧客情報の持ち出し。

近年、退職の仕方の一つを指して「リベンジ退職」という言葉が使われることがあります。

これは法律用語ではなく、SNSやメディアなどで使われるようになった新しい俗語ですが、
企業経営にとって無視できないリスクを含んだ退職態様です。

本記事では、使用者側の立場からこの「リベンジ退職」を整理し、企業が取り得る実務対応を解説します。

1.企業が警戒すべき「リベンジ退職」のリスク

リベンジ退職は、ただの退職ではありません。

背景に

  • 不満
  • 対立
  • 処分への反発
  • ハラスメント主張

があることが多く、退職後に

  • 未払残業代請求
  • 損害賠償請求
  • SNSでの告発
  • 競業・営業秘密侵害

などへ発展することもあります。

問題は「退職」そのものではなく、退職に伴う二次被害です。

2.「リベンジ退職」とは?

「リベンジ退職」とは、従業員が会社、上司への不満や人間関係のトラブルなどを背景に、会社に仕返しをするかのように退職する行為を指す概念です。

典型例としては、

  • 繁忙期直前の突然退職
  • 重要案件放置
  • 引き継ぎ拒否
  • 内部情報の持ち出し
  • 顧客データや技術情報の消去・削除
  • 顧客奪取や従業員の引き抜き
  • 退職直後のSNS告発

などが挙げられます。

不平不満を吐き出すかのように、意図的に会社を困らせる行動で、嫌がらせの一種といえるでしょう。
こうした退職のされ方をされれば、会社側としても大変な憤りを感じることは当然ですが、対応面では感情的評価と法的評価を分けて考える必要があります。

3.リベンジ退職によって企業が被る具体的被害

業務停滞・取引先への影響

退職社員のみが特定の業務を担当していた場合、突然の退職で業務オペレーションに重大な影響が出ます。

カバーする他の従業員への負荷が一気に増すことになります。

営業秘密・顧客情報の持ち出し
  • 顧客データ
  • 見積情報
  • 技術資料

の不正取得は、不正競争防止法違反の問題となり得ます。

データ削除や会社設備の破壊

会社が管理するデータを消去・削除することや、会社の什器・備品を破壊するなどの行為がなされることがあります。会社の事業への影響は甚大であり、業務の停滞・支障が生じます。

不法行為による損害賠償請求が問題となるにとどまらず、電子計算機損壊等業務妨害罪や器物損壊罪などの刑事処罰の対象となり得る行為であり、警察への被害届や告訴などの刑事対応も視野に入ります。

未払残業代・労務請求

退職後に、

  • 未払残業代請求
  • ハラスメント損害賠償

がなされるケースもあります。

顧客奪取や従業員の引き抜き

計画性が高く規模が大きい場合には、会社に甚大な損害を与える可能性があります。背信性が著しいケースでは、損害賠償請求事案に発展します。

SNS・口コミによる信用毀損

不適切投稿が拡散すると、企業ブランドに深刻な影響が出る可能性があります。

4.リベンジ退職が発生した場合の対処法

感情的に対応しない

感情に任せた報復的対応は状況を悪化させる危険があります。

弁護士に相談するなど、現状の整理と対処策の検討は専門家を交えながら行う方が望ましいといえます。

証拠保全
  • メール
  • 業務データ
  • 勤怠記録

を速やかに保全します。

情報持ち出しの確認

ログ確認、アクセス履歴の確認を行います。

退職時誓約書の活用

リベンジ退職の兆候を発見した段階であれば、

  • 秘密保持条項
  • 競業避止条項

を整理した誓約書への署名を促します。

法的対応の検討

営業秘密侵害が疑われる場合や、引継ぎ義務違反、データの損壊・隠匿などにより会社に損害が発生している場合は、

  • 差止請求
  • 損害賠償請求

を検討します。

重要なデータの消去・削除、あるいは会社設備の破壊がなされたような場合は、捜査機関への被害届の提出ないし告訴を検討します。リベンジ退職をした社員からは、「やってない」「自分じゃない」「わざとじゃない」「うっかりであって悪気はなかった」などの言い逃れがなされることが通例であり、立証のための証拠保全が重要となります。

幼稚な嫌がらせのレベルを超えて、退職の態様が雇用契約上の義務違反と評価できる違法行為に達している場合、リベンジ退職をした従業員には債務不履行ないし不法行為による損害賠償責任が発生し得ます。企業秩序を確保するためには、同種の行為は許さないという断固とした態度を社内外に示すことも時に大切であり、法的措置を積極的に検討すべき事案か否かを見極める必要があります。

5.参考裁判例

【徳島地判令和7年1月16日(N工業事件)/裁判所ウェブサイト掲載判例】

研究開発に従事していた元従業員が退職時に会社の共有サーバーに保存されていた実験データ等のファイルを削除したことにより損害を被ったとして、会社が元従業員に2500万円あまりの損害賠償を請求した事件です。

被告となった元従業員は、引継ぎの必要のないファイルであったことや会社にとって財産的価値のないデータであったこと、あるいはプログラミングを誤った過失によりデータが消去されたことなどを主張するとともに、会社における業務上必要なデータのバックアップ体制不備による過失相殺を主張していました。

判決では、こうした元従業員の主張を排斥し、約577万円の損害賠償責任を認めました。

また、同事件では、身元保証契約に基づく保証債務の履行として、身元保証人に対する請求も認められています。

【東京地判令和4年4月19日(A社事件)/労働経済判例速報2494号3頁】

学習塾の校長をしていた元従業員らが会社貸与パソコン内のデータを消去し、あるいは内部生の引抜きを行い、そして会社の教材を持ち出したことにより損害を被ったとして、学習塾を経営する会社が元従業員らに6000万円あまりの損害賠償を請求した事件です。

裁判所は、内部生の引抜行為に起因する逸失利益や、持ち出しに起因する教材費用相当損害金、貸与パソコンのデータ消去に起因するデータ復旧費用相当損害金などの損害賠償の支払いを元従業員らに命じました。

6.リベンジ退職を未然に防ぐための予防策

業務の属人化を防ぐ

重要業務の分散・共有が重要です。

営業秘密管理体制の整備

秘密管理性がなければ、営業秘密として保護されません。

アクセス権限の制限措置などシステムとしての管理が重要です。

誓約書の整備

労働契約上労働者が負う各種義務は退職後にも当然に及ぶものではありません。

退職後にも負うべき秘密保持義務の明確化は不可欠です。

労務管理の適正化

未払残業代リスクを放置しないこと。

相談しやすい環境づくり

早期に不満を吸い上げる仕組みが有効です。

仮に独善的で正当性の見当たらない不満であっても、それを「聞く」仕組みを整えておくことは、本人にとっても会社にとっても有益といえます。

7.リベンジ退職は弁護士に相談を

リベンジ退職は、

  • 労務問題
  • 情報管理問題
  • 不正競争防止法問題
  • 損害賠償問題
  • 信用毀損問題
  • 刑事処罰問題

が複合的に絡みます。

使用者側の立場で冷静に法的な整理をしなければ、
状況が悪化し不要なリスクを負うことになりかねません。

弁護士が関与することで、

  • 過剰反応を防ぎつつ
  • 法的に有効な対処を選択し
  • 再発防止策を構築

することが可能です。

8.当事務所のサポート内容

当事務所は、名古屋を中心に、愛知・岐阜・三重・静岡の企業様の使用者側労務問題を多数支援してきました。

主な支援内容
  • 退職トラブルの法的整理
  • 営業秘密侵害対応
  • 未払残業代請求対応
  • 交渉・協議対応
  • 差止請求・訴訟対応
  • 退職合意書作成
  • 情報管理体制整備
  • 労務コンプライアンス体制構築
「問題社員」ではなく「組織課題」として捉える

リベンジ退職は、個人の問題に見えて、組織の問題が背景にあることもあります。

感情論だけで片付けることなく、組織をよりよくするための一つのきっかけとして捉え、
法的整理と予防策を構築していくことが重要です。

リベンジ退職対応でお困りの企業様へ

初動対応が極めて重要です。

「不穏な退職行動の兆候が見られる」
その段階でのご相談をおすすめします。

お気軽にお問い合わせください。

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